
ブラジリアン・ポップスの革新者マルコス・ヴァーリが1971年に発表した名盤『GARRA』。
ボサノヴァの軽やかさに、ソウル、ファンク、ジャズ、サイケ、そして政治的なメッセージまで溶け込ませた、70年代ブラジル音楽の“転換点”とも言える一枚です。
当時の軍事政権下で露骨な抵抗は許されなかった時代。
その中で Valle は穏やかな表情の裏に “静かな意志” を忍ばせ、
メロウでポップな曲調にさりげなく社会への視線を混ぜ込みました。
音は明るく、どこまでもスムース。
でも、しっかり「芯」がある。
そのギャップが、このアルバムを今も特別な作品にしています。
曲紹介
1. Jesus Meu Rei
柔らかく始まる短い導入曲。スピリチュアルなムードが全編の空気を整える。
2. Com Mais de 30
“30を超えてもまだ人生は始まったばかり”というテーマ。
軽快なリズムと前向きなヴァーリ節が光る名曲。
3. O Cafona
60〜70年代ブラジル文化のキーワード“cafona(ダサい/俗っぽい)”を逆手に取った洒落たポップ曲。
4. Pescaria (Pescador de Ilusões)
渋いサイケ感が漂う、アルバムの隠れた名曲。
ホーンのアレンジが非常に70年代的。
5. Dia de Vitória
短く、メッセージ性の強い曲。勝利の願いを柔らかく歌う。
6. Garra
タイトル曲。ファンキーなベースとストリングスが印象的。
“自分の力を信じろ”という静かな励ましの歌。
7. Black Is Beautiful
ブラジルの黒人文化への敬意を表したナンバー。
英語混じりの歌詞も当時としては挑戦的。
8. Pega a Voga, Cabeludo
“長髪の若者よ、波に乗れ”という、反体制的ニュアンスを含んだ軽快な曲。
グルーヴが最高。
9. Wanda Vidal
サントラのような哀愁を持つインスト。映画的なスケール感がある。
10. Minha Voz Virá do Sol da América
“声はアメリカ大陸の太陽からやってくる”。
穏やかで広がりのあるラストにふさわしい美しい終曲。
最後に
『GARRA』は、マルコス・ヴァーリがブラジル音楽に “新しいノリ” を持ち込んだ、
70年代ファンク/ソウル・グルーヴの核心が詰まったアルバムです。
柔らかい歌声とメロウなコード進行はそのままに、
リズムだけが一段階強く、太く、都会的になっていく――
“ボサノヴァの先へ進むブラジル音楽” を感じられるのがこの作品。
特に
- 「Garra」 の強靭なベースライン
- 「Pega a Voga, Cabeludo」 のブレイク感のあるドラム
- 「Black Is Beautiful」 のソウルフルなホーンアレンジ
ここに Valle の“都会派グルーヴ”が結晶しています。
当時のブラジル音楽は政治的緊張が高まっていた時代ですが、
Valle は露骨な抵抗ではなく、
“軽やかに、しかし確実に黒いグルーヴを流し込む” というやり方で新しい音を広げていきました。
そのため『GARRA』は、
単なる心地よいボサノヴァでもなく、
ブラジリアン・ソウルの先駆けとしても一級品。
軽いのに腰にくる。明るいのに深い。
その独特の肌触りこそが、このアルバム最大の魅力です。

